感想・見どころ「約束のオーバル 劇場版」を見てきました:ネタバレは少し。パンフレット購入はマスト

2024年11月29日に新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国でロードショーとなった映画「オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版」を鑑賞してきました。オートレース好きでも、オートレースを知らない人でも、森くんのファンでも、森くんを知らない世代でも、勇気を貰える作品です。特に、日常に困難を抱えている人は、鑑賞後に「明日から頑張ろうか」と思えるはず。オートレースを知らない人でも理解できるように、難しい専門用語のない作品になっていましたので、誰でも94分間のドキュメンタリーに釘付けになると思います。ネタバレするつもりはありませんが、作中の映像について感想を述べているので、いわゆるネタバレはある程度入っていると思います。ぜひ、鑑賞後にお読みいただければ…!

川口オートレースです(撮影には許可が必要)

■森くんはヒーローなんだ、と実感

森且行選手は、1996年に国民的アイドルグループ・SMAPを脱退し、公営競技の一つであるオートレースの世界に飛び込んだ異色の経歴の持ち主。そもそも公営競技全体で見ると、オートレースの知名度は競馬、ボートレース(競艇)、競輪に比べ高くないので、筆者・らくも、競馬しかやっていなかった頃は「オートレース?あぁ、SMAPの森くんがやってる競技か」程度の印象しかありませんでした(おそらく、2024年12月時点で全国に5場しかないことが知名度の上がらない原因の一つなのでしょうけど)。

この映画は、そんなオートレースの世界に、SMAPを抜けてまで森くんはなぜ飛び込んだのか?SG(競馬でいうところのG1、他競技でいうところのそのままSG)の一つの日本選手権勝つまでに何があったのか?そしてそのあとは…?を丁寧に追いかけた作品です。

森選手が2021年1月の落車事故に遭って以来、森選手の現役復帰に競技生活に密着してきたTBC「あさチャン!」の取材クルーが中心となって制作されたようで、2回放送された「情熱大陸」の映像も盛り込まれていました。

作品の中で、森選手が「(オートレースは)ヘルメットを被れば誰でもヒーローになれる」と語るシーンがあります。幼少期にお父様に連れてこられた時も、オートレーサーが自分にとっての「ゴレンジャーだった」と語っていました。それがカッコよく見えたのだと。

【応援してくれる人を救ったヒーロー】
大きな落車事故があったときは、多くのファンが悲しみに暮れたはず。でも、森くんが苦しみを乗り越え、川口オートに復帰した姿は、おそらくたくさんの公営競技ファン、オートレースファン、森くんファンを救ったのでは。ここが一つの、ヒーロー譚。ご家族としては引続き不安が付きまとったでしょうが、生死の境を彷徨った家族がまたオーバルを駆け抜ける姿を見て、ホッとしたのかなと思います。

【先生とリハビリのパートナーを救ったヒーロー】
作中で印象的だったのが、手術を引き受けた医師の一人である帝京大学医学部附属病院の石井医師と、元同院附属の理学療法士・粂田さんが、森選手の復帰戦を見に来たシーン。クールにインタビューを受けていた2人ですが、森選手がオーバルコースの向こう正面で先頭に躍り出た瞬間、石井医師は手元の柵を叩き「すごい!すごい!」と大歓喜。勝利には「やった!!」と涙したのです。森くんが動けるように、と支えてきた先生ですが、本当は心配で心配で仕方なかったのでは。ご自身の治療に自信はあっても、本当にオーバルに戻れるのだろうか?という疑念は晴れなかったはず。それを、森選手は解消してみせた。森くんは、先生と粂田さんの頑張りに応え、結果を見せたんですね。森君は2人のことも、ヘルメットと勝負服に身に纏ったヒーローとして、救ったんだと感じた場面でした。

【新井恵匠選手を救ったヒーロー】
この映画を鑑賞する時、というか「情熱大陸」を見ているときも願ったのが、新井恵匠選手が絶対的な悪者として描かれませんように、とうこと。森くんが重症を負ったのは確かに新井恵匠選手との接触事故が原因でしたが、公営競技の世界に事故はつきもの(悲しいことに)。加害選手も被害選手も、2人ではなかった運命線はきっとあって、新井選手も「どうして」と自責の念に押しつぶされそうだったに違いないのです。森くんの病状や復帰が取り上げられる度、新井選手はどんな思いであったのか、想像するに堪えません。きっと、誰よりも森くんの復帰に救われたのは新井選手だったんじゃないかなぁ…。映画のパンフレットで、森選手は「恵匠には逆に辛い思いをさせてしまった(パンフレット7ページ)」と語っているように、森選手も、新井選手が責め立てされている姿は見たくなかったのでしょう。森選手の復帰時、新井選手は川口でのあっせん(レースへのアサイン)がないのに、森選手のロッカーに駆けつけていました。森選手の勝利後は、新井選手の目に涙。そのシーンを見て、「ああ、森くんは自分が復帰することで新井選手のことも救ったのだ」と感じました。映画の構成として、森選手の落車シーンや他の選手の落車シーンが何度か放送されたので、オートレースに落車はつきものだ、という点もきちんと描いていたのは、作品としてフェアだったと思います。

■オートレースに行こうよ!

命がけのスポーツですから、この映画を見て「オートレース、怖いわ」と思った方がいるのは当たり前だと思います。でも、森くんは療養中も、今も、全国各地でオートレースの普及に力を入れています。それは一重に、自分が大好きなオートレースを、もっとたくさんの人に知ってほしい、という気持ちから来ているのでは。

2016年3月には、首都圏のオートレース場の一つであった船橋オートレース場が閉場しました。そのため、オートレースのサーキットは、既述の通り、現在に5場しかありません。

群馬の「伊勢崎オートレース」、森選手のホームである埼玉の「川口オートレース」、モーニングレースの開催で知られる静岡の「浜松オートレース」、そして作中に登場した、森選手の同期仲間である岩﨑亮一選手と西村龍太郎のホームである山口・山陽小野田市にある「山陽オートレース」、最も西に位置するオートレース場である福岡・飯塚市にある「飯塚オートレース」。

関西や中四国の方は山陽か飯塚、もしくは浜松まで、北海道・東北の方は群馬か埼玉まで足を運ばないといけませんが、森選手だけでなく、70代で現役バリバリの選手や、女子選手、新人ながら圧倒的スキルで先輩レーサーを抜き去ってゆく超新星など、“誰かのヒーロー”がスピードを競っているのがオートレース場なのです。きっと、あなただけのヒーローを見つけることができると思います。どうかどうか、映画をご覧になったあとは、森くんが愛してやまないオートレースを見に行きませんか?

それが、森選手の願いの一つだと思うのです。機会があれば、筆者・らくも、各オートレース場の特徴とアクセスを紹介したいと思います。

■パンフレット購入はマスト

劇場版パンフレットは1冊1,200円。出来上がった映画を見た森選手の感想や、監督コメント、ナレーションを務めた萩原聖人さん(森くんとは「3年B組金八先生 第3シリーズ」の“同級生”)のコメントが掲載されており、鑑賞後に読み直すとまた感動が深くなります。オートレースに関する説明パートも見開きで掲載されていて、読み応え抜群。森選手が「Sランク」に復帰した、という意味と大変さも、この見開きの説明を見ると理解できるようになっています。ぜひ購入を。自分の生き様が映画になるって、純粋にすごい。

ヒーロー・森選手の活躍はこれからも、夢と復帰を約束したオーバルで、続くのです。

映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』本予告②【11月29日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー

(小ネタ)オートレース用語・作中用語

オートレース:日本で行われている公営競技の一つ。最大8台のバイクが、コースをレースにより決められた数を周回し、競います。ちなみに、マシンにブレーキはなく、ギアはローとトップの2つだけ。最高時速は150kmを誇り、公営競技のトップスピードとして最速。エンジン毎に車名が付いており、森選手の場合は「ハカ」「ニジュウサン」「Mニジュウサン」。出走表には、選手名とこの車名も記載され、実況で車名が呼ばれることも。ちなみに、作品に出てきた西村龍太郎選手の車名は「ドラゴンタロウ」「ピザ」など、岩崎亮一選手の車名は「ファルシオン」「ファルシオン1」「FGビゼン」など。

オーバル:モータースポーツで使用されるサーキットの一種。楕円に近い。オートレースの場合は1周800メートル、内周500m、幅30m。5場とも同じなのは、場によりコース特性を持つ他の公営競技とはちょっと違うポイント。でも、走り心地や水はけの良さ、風向きの特徴などは場によって異なるとか。

僕の生きる道:映像に、森選手のロッカーに掲げられている「僕の生きる道」というタオルが何度も映り込んでいました。東京競馬場にも同名のラーメン屋がありますが、系列店?本店は東京・文京区にある「俺の生きる道 白山」だとか。映画パンフレットによると「知り合いのラーメン屋さん」とのこと。
https://tabelog.com/tokyo/A1323/A132301/13202927/

Sランク:オートレースの選手ランクは3種類。成績順に、S級(第1位~第48位)、A級(第49位~第280位)、B級(第281位~最下位)の3つのランクのいずれかに属します。森選手は、復帰前はS級で、復帰後はB級からスタートし、2024年4月にS級に復帰しました。この期間、復帰からわずか1年ほど。すごい。オートレースの世界に定年はないので、基準以上の成績を収めていればどこかのランクに属します。ちなみに、オートレーサー最高年齢は2024年9月時点で78歳の鈴木章夫選手!2024年12月現在はA級に位置されています。最近話題なのは、浅倉樹良選手。2024年1月デビューの現25歳という若手ながら、すでにA級にいます。現時点での全国ランキング1位(S-1)は鈴木圭一郎選手、2位(S-1)は青山周平選手、3位(S-3)は金子大輔選手です。森選手の同期の若井友和選手は、川口オートの中で最上位に位置し、8位(S-8)。森選手の同期は優秀なレーサーが揃っていて、永井大介選手が18位(S-18)、有吉辰也選手が4位(S-4)。映画にも出てきた新井恵匠選手は37位(S-37)で、森選手の2位下に位置。近づいてきている!今は森選手と同じS級として走っています。森選手と新井選手のレース、見たいですよね。
https://autorace.jp/autorace_guide/riders.html

らく@staff
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  • 競馬、温泉、落語と講談が大好きな地方暮らし。個人の趣味サイト「くらしのおたより」を運営しています。サイト内の写真・文章の引用については「はじめに」をご覧ください。https://lifestyle-area.com/2017/04/14/hello-world/

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