【読んだ】『右脳思考』内田和成―仕事は直感から始めよ!そのワケ
『右脳思考』
著者:内田和成
出版:東洋経済新報社 (2018/12/26)
ページ:256
本書は、「ロジカルシンキング」による”左脳偏重”となっている現在のビジネスシーンにおいて、タイトルの通り「感覚」や「勘」という、右脳を使って思考することがいかに大切であるかを説く1冊です。著者は、日本の経営学者・コンサルタントで、早稲田大学商学学術院教授、ボストン・コンサルティング・グループシニア・アドバイザーを務める内田和成(うちだかずなり)氏です。
無論、著者はロジカルシンキングを蔑ろにしているのではなく、ロジックだけでは成果を上げることはできない、と主張しているのです。…というのも、いくら筋道の通った主張をしたとしても、最後には人を動かさなければ事業は成功しません。そして、その人を動かすものこそ、「感情(右脳)」なのです。
◆右脳がビジネスに影響? 直感の重要さを示す3ポイント
本書では、ビジネスの世界における感情、つまり「右脳」が持つ重要性および生かし方の解説に始まり、左脳と右脳の使い分けのほか、右脳の鍛え方について述べています。そして、最終章(第6章)では、仕事においてロジック(左脳)よりも勘(右脳)を優先するという大胆な提言がなされています。しかし、本書を読み進めると、このような提言も腑に落ちるかもしれません。
ここでは、筆者が本書を読み、参考となったポイントを紹介したいと思います。
(1)右脳で「楽しく」仕事ができる…面白い!をビジネスの活力に
まず、ビジネスの世界において右脳を使う重要性について、本書では3つのポイントを挙げています。
1つ目は、楽しく仕事ができることです。
左脳を使ってロジカルに仕事をすることは合理的ではありますが、そこに仕事の面白みはあるのでしょうか。仕事のすべての場面で使えるわけではありませんが、ひらめきや思いつきといった要素を、著者の内田氏は「仕事だから…」といって押し殺すのではなく、活かしてみるよう勧めています。
というのも、仕事で何か提案する以上、それを実行する必要があります。右脳で得たひらめきや思いつきは、本人にとっては面白みがあるからこそ生まれたといえるのではないでしょうか。そこで、いざその提案を実行しようとしたとき、「面白い!」と思ってやるかどうかでモチベーションは異なります。
このように、右脳の重要性を示す大事なポイントの1つには、楽しんで仕事ができるという、動機が隠されています。
(2)成功者は右脳の”直感”を大事にしている…高原、下田もそうだった
右脳がビジネスシーンに重要であることを示すポイントの2つ目は、成功している経営者は直感を大事にしている、ということです。
著者によると、成功している経営者の中には「ロジカルシンキングで考えると成功確率が低いので止めたほうがいいという道を選んでいる」と考えている者がいます。その実例として、「ユニ・チャーム」の創業者である高原慶一郎氏や「サイクルベースあさひ」の下田進氏が挙げられていました。
両者に共通しているのは、はじめは直感や経験から生じた…ーつまり右脳によるー…決断を、後から左脳によって理屈づけることで成功した、ということだとか。ロジック偏重ではなく、直感と論理を相互補完関係におくことで成功するという実例なのだと思います。
(3)みんな右脳の”感情”で動いている…感情と理屈の因数分解
ビジネスにおいて右脳の働きは重要であること示す3つ目のポイントは、「人間はロジックでは動かず、感情で動く」という点です。
理に適った提案・主張をしたとしても、相手からはなかなか受け入れてもらえません。その際に、何が原因で相手が拒否をしているか理解する必要があります。
著者の言葉を借りれば、相手が提案を拒否する理由は“感情と理屈の因数分解”により導き出せるとしています。具体的には、提案は感情の「右脳により拒否」されているのか、ロジックの「左脳により拒否」されているのか分解するということ。著者は、この”感情と理屈の因数分解”を行い、それぞれの原因に合わせた解決を行うことを主張しています。
◆右脳or左脳、右脳&左脳…鍵は「使い分け」にあり
右脳の重要性を理解した上で、次は本書をなぞりながら、右脳の使い方と左脳との使い分け方について紹介したいと思います。本書の第二章から第四章では、左脳と右脳の使い分けについて書かれています。
著者によると、仕事の基本的な流れには「インプット」「検討・分析」「アウトプット」の3つのステージがあり、その順で「右脳」「左脳」「右脳」と使い分けます。つまり、
- 1、インプット:右脳
- 2、検討・分析:左脳
- 3、アウトプット:右脳
ということですね。ステージごとに脳を使い分け、右脳と左脳を行き来することを、著者は「脳のサンドイッチ構造」と呼んでいます。
それでは、もう少し各ステージについて深く見ていきます。本書に則って、各ステージではどのような仕事をし、どのように脳を使うのか紹介したいと思います。
(1)インプット…五感で情報収集&仮説立て、課題発見へ
1つ目のステージは、情報収集や仮説づくり、課題を発見するための「インプット」です。ここでは、右脳による五感をフル活用して、物事を観察したり、面白いことを感じ取った上で、自分が面白いと思うアイディアを形成します。
(2)検討・分析…五感をロジックで補足
2つ目のステージでは右脳によってインプットした結果、生じたアイディアの「検討・分析」を行います。このステージでは、左脳によって思いついたアイディアにロジックを付け加えます。
(3)アウトプット…意思決定&実行
3つ目のステージは、「アウトプット」です。ここで指すアウトプットは、成果物や提案書に留まらず、そのアウトプットにより意思決定し、実行にまで移すことまでを含んでおります。ビジネスシーンで考えると、自分の力でアイディアを説得力のあるものにするのはステージ2の「検討・分析」までで、実際にそのアイディアを採用するかどうかは、上司ないしは経営者の決断に委ねられています。
つまり、アイディアにどれほど説得力があったり、合理性があったとしても、最終的に受け入れられなければ、アウトプットとしては失敗したことになります。そうならないためには、最終段階にあたるこのステージ3の「アウトプット」で右脳を駆使し、相手の感情や思考を読み取り、アイディアを受け入れてもらえるような説得力のあるアウトプットにします。
人を動かす4要素
しかし、簡単に「説得力のあるアウトプットにする」とはいえ…、実際に相手に説得するためには、どのようなアウトプットにすれば良いのでしょうか。
著者は、説得力を持ったアウトプットとするために必要な要素として「論理性」「ストーリー」「ワクワク・どきどき」「自信・安心」を挙げ、この4つの要素で人を動かすことができるとしています。論理性の部分に関しては、左脳がメインの役割となりますが、他の要素は右脳がメインにあたります。だからこそ、筆者はこれらの4要素を満たしたアウトプットを生み出せば、相手の心を動かすことができるとしています。
◆いざ、鍛えよう右脳を
第一章ではビジネスの場における右脳の重要さ、第二章から第四章では右脳と左脳の使い分けを見てきました。第五章では、右脳の鍛え方について述べられています。
これまでに述べたように、ビジネスでは左脳が偏重されており、右脳はあまり使われてきませんでした。そのため、左脳と同等に右脳を使いこなすためには、まずは「右脳を意識して鍛える」必要があります。
観・感・勘…右脳を鍛える3つのカン
著者は、人によって生まれつき右脳が働く分野と、そうでない分野を持っているとしています。生まれつき右脳が働く分野に関しては、それを仕事に活かせばよいものの、働かない分野に関しては意識して右脳を使い、経験を積み重ねることにより右脳を鍛えていかなくてはならない、ということです。
その鍛え方として提唱されているのは、「観・感・勘」の3つのカン。右脳を訓練していくためには、これら3つのカンを意識して使っていく必要があります。
この3つのカンとは、①観察する(観)、②感じ取る(感)、③勘を働かせる(勘)の3つ。ただし、ビジネスに活かすためには、これら3つのカンを働かせるだけでなく、さらに右脳を使って感じ取ったことを書き出し、検証(証拠探し)し、修正を繰り返すことが重要であるとも述べられています。
◆ビジネスでも「直感」ファーストで
最終章(第六章)では、自分が右脳から生じる感じ取ったことや思ったことを、ビジネスの場だからと抑え込むのではなく、感情に基づいて行動してみるという大胆な提言をしています。というのも、第二章から第四章で見た通り、右脳を起点として仕事を始めた(ステージ1から)としても、”右脳と左脳のサンドイッチ構造”により左脳が右脳の直感を「仲介」するため、合理的でない感情は排除されるからです。
2019年2月25日現在、同書はAmazonの「経営学・キャリア・MBA」ジャンルでも特に人気の書籍として推されています。筆者自身、普段の会話で「あなたはなんでも右脳で物事を考えているよね」「あの人はガチガチの左脳人間だ」など(最近はそういった男女の脳みその構造に言及して炎上した広告?もありましたが…)の言葉を耳にしたときや、普段の仕事をもっと楽しくしたい!と思っている方には、ぜひオススメしたい1冊でした。