【読んだ】被差別の食卓―部落・カースト・マイノリティと食べ物

被差別の食卓
著者:上原善広
発行所:新潮社

1973年大阪府生まれのノンフィクション作家、上原善広氏による初の書籍(2005年発行)。上原氏は自らが大阪府の被差別部落出身であることを公にしており、今回の書籍はその部落(上原氏は地域で一般的な呼び名である「むら」を利用)で食べられていた「あぶらかず」を糸口に、国内外の被差別地域で食べられている“ソウルフード”を求めて旅した記録をまとめたものである。

東京競馬場でも見かける「かすうどん」。あぶらかす、と聞いてピンとこなくても、関東、特に府中市の東京競馬場を利用する競馬ファン・競馬場グルメファンなら、牛のマークが描かれた「かすうどん」のカップを持ち歩く人を見かけたことがあるのではないだろうか。いまや全国的な知名度も高くなったあぶらかすが、被差別地域では一般食だったとはまったく知らなかった。

本書では、こういった「あぶらかす」のほか、「さいぼし」「おでんそば」「こうごり」といった、もともとは国内の一部地域でのみ食べられていた食事のほか、アメリカで黒人料理、いわゆるソウルフードとして親しまれている「チトリングス」「カラードグリーン」「ガンボ」「ポーボーイ」、ブラジルの「フェジョアーダ」やデンデ油を使ったバイーア料理、ある動物を使ったブルガリアでの一皿など、海外の被差別地域・部落、民族的少数民族(エスニックマイノリティー)、カースト制度の外側の人々の間で食されてきたものを紹介している。

食べることや食文化を愛してやまない人ならもちろん、海外生活事情に興味のある人なら、楽しんで読むことができると思う。いわゆる「シズル感」を漂わせた食レポではないが、「味噌汁」や「カレー」といった日本人が想像しやすい食事を例に紹介しているため、食べたことのない料理でも想像しやすいように表現されている点は読者フレンドリーだった。

わたくしごとで恐縮だが、筆者の自宅の本棚では、本はジャンルごとに分類されている。たとえば、競馬関係は「ギャンブル」コーナー、趣味の旅行に関する紀行文やガイドブックは「旅行」コーナー、学術書関係は「経済」「政治」コーナー、日本画や洋画に関する書籍は「美術」コーナーなど。今回の「被差別の食卓」はどこに分類すべきか悩むところだ。

うーん、通常の食レポならば「食事・グルメ情報」コーナーに分類するところだが、第1章の「ソウルフード―アメリカ」と第2章の「奴隷たちの楽園―ブラジル」はまだしも、第3章「漂泊民の晩餐―ブルガリア、イラク」と第4章「禁断の牛肉料理―ネパール」は、書名に「被差別」とある通り、民俗の歴史や差別問題などに迫る社会派ルポタージュ色が濃い。そう思って読み進めると、第5章の「被差別の食卓―日本」では味や調理法、どのように食べるかなどが深く言及されており、なるほどやはり、食ルポだよなぁ…と思い直す。

世界中の被差別地域や少数民族(マイノリティ)、カースト制における下層民の暮らす地域とそこでの暮らしについて多分に言及しながら、上原氏の政治的な思想や姿勢は多く含まれていない。上原氏の旧友だというカメラマンの八木澤高明氏が撮影した写真もふんだんに掲載されており、堅苦しすぎず、崩れすぎず、一気に読める手軽さもある。そうすると、自分の中では特に気に入っている書棚の一角、「食事・グルメ情報」コーナーに分類しても、かたすぎなくて、いいかなとも思う…(食事・グルメ情報コーナーの書籍はたいてい、レシピか「〜で食べたい100」などのムック本か、紀行文・漫画しかない…)。

さて、こうえらそうに記しておきながら、筆者自身は「かすうどん」はおろか「あぶらかす」を食べたこともない。上原氏が日本版ビーフジャーキーと呼ぶ「さいぼし」は見たこともないし、「こうごり」は画像検索をして初めて見聞きした食べ物だ。食べるのが好きであると言いふらしておきながら、まったくの無知であったことを恥じたい。

らく@staff
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  • 競馬、温泉、落語と講談が大好きな地方暮らし。個人の趣味サイト「くらしのおたより」を運営しています。サイト内の写真・文章の引用については「はじめに」をご覧ください。https://lifestyle-area.com/2017/04/14/hello-world/

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